NHKスペシャル 世界里山紀行シリーズ

『中国・雲南・竹とともに生きる』

2007年8月27日放送(NHKスペシャル)
49分版&90分版 
ハイビジョン作品


※第16回 地球環境映像祭 入賞

この作品の関連書籍が発売されます

フィンランド・森の精と旅をする

フィンランド・森の精と旅をする(Tree People) 発売予定: 4月中旬   1800円+消費税   ISBN 978-4-903971-01-8

著者: Ritva Kovalainen
    Sanni Seppo
監修: 上山美保子
翻訳: 柴田昌平

スタッフ

プロデューサー: 柴田昌平
ディレクター:  張克明
撮影顧問:  山元昭信
撮 影:   毛継東、川口慎一郎
制作統括:  村田真一、石田亮史


【撮影エピソード】(張克明)

 番組のリサーチは2006年の3月から始まった。日本から雲南省の昆明に到着し、竹の故郷・西部の徳宏州と南部の西双版納州に向かった。各州の半径80キロ内にある合計70数ヶ所の村を車で回ったが、理想とする場所は、なかなか見つからない。探す気力が失せていた頃、この村に出合った。初めは、よくある小さな集落かと思ったが、竹の鞭を持つ牛飼いに付いて、なんとなく奥へ奥へと進んでいったところ、急に視界が開け大きな河が見え、夕陽を背に天秤棒の竹籠に新鮮な牧草を摘んだ村人が、キッシキッシと音を立てながら渡って来た。それは、竹で作った大橋を歩く村人たちが鳴らす足音だった。両岸には豊かな竹林の葉がざわめいていて、「この風景はずっと昔から続いてきたに違いない」と感じ、心も落ち着いた。人が自然とともに生きてきた歩みを彷彿させる桃源郷のような空間だった。

 中国では古の時代より、竹は節と空洞を持つ特徴から“気骨と虚心(芯=心)”という言葉が連想されてきた。かつて孔子によって編纂された「周易・説卦」によると、竹は竜が地上に舞い降りたときの化身とされ、雲南原産の一番大きな竹も竜竹と呼ばれる。少数民族の民間伝承でも、農暦の5月13日は竜の誕生の日で、竹を植える日とされている。

 村に撮影隊が入るのは初めてだったが、大変な歓待を受け、村人の結婚式に何度も呼ばれた。撮影間もない頃、竹の上で3羽のヒナを育てている最中の四十雀を発見した。村長に足場を組むよう頼んだところ、腰に竹刀を下げた二人の老人がやってきた。彼らは、私たちの目の前で、2本の竹を切り出し、あっという間に頑丈な足場を組んでくれた。その一人が、番組に登場するタンさんで、竹を巧みに操る村の長老だった。

 ヒナを撮り始めると、村の子供たちもやって来た。3日後、突然ヒナが消えた。竹林や村を探し回り、子供たちにも尋ねたが見つからない。拡声器でも放送を続けた。その数日後、タンさんの庭の片隅でヒナが1羽だけ見つかった。彼の孫は、ヒナが可愛くて、持ち帰ってきてしまったのだ。

 私たちがファインダーを覗く時、常に念頭に置いたのは、生き物の生態系をどう取り込むのかというテーマ。撮影対象を見つけるのは簡単だが、習性や環境との相互関係を理解するために、長期間に渡る観察が軸となる。例えば、村人に愛されているユーグワン(ゾウムシの仲間)。この昆虫に関しての情報は「土に潜る」という話だけだった。そこで、日照量、土壌等の微調整を試行錯誤しながら、幼虫を飼育してみた。数日後の真夜中、私は幼虫が土の中に潜る姿を目撃した。体の数倍もある竹の節を背負って、手足も無いのに懸命に潜る姿は、私をもいっぺんにこの不思議な虫の虜になった。そこから、この虫の春夏秋冬に渡る生活史の解明に光が射し、その後の映像につながっていった。

 数千年も続く、ゆったりした時間と豊かな空間が溢れる中国雲南、“竹林の里山”の一年間の記録をじっくりとご覧いただきたい。

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